心に残る“雑貨屋さん”でのものづくり
雑貨店のイベントもヒントに
毎回、本欄では雑貨(生活雑貨、趣味雑貨)ビジネスの専門家の立場から、雑貨店や雑貨業界のトピックに解説を加えて紹介している。ファッション業界と雑貨業界は、ともに新たなライフスタイルや価値を創造(発見)し、商品を通して、お客様に提案することが使命のビジネス。
現在、雑貨業界で起きている様々な事象はファッション業界の皆さまにも、参考になるところがあるのではないだろうか。
今回は、雑貨店のイベント事情について。最近は商品を中心に据えた、即売上に直結する催事だけでなく、お客様の心におだやかに残るイベントを開催する雑貨店が増えた。
本稿は2010年8月24日執筆掲載
雑貨づくりを体験
なかでも、好評なのが店頭で行われる小規模なワークショップ(workshop:体験型講座)だ。
ここで言うワークショップとは初心者を対象にした手作り体験の講座のこと。1-2時間、数千円、10名程度までの規模のものが中心だが、なかには30分弱で実費のみのほぼ無料のものもある。
人気の分野
その手作りの分野はキャンドル、石鹸、刺繍、編み物、アクセサリー、カリグラフィー、消しゴムハンコ…など、現在人気のある手芸、工芸が多い。大がかりな設備(機械、器具など)が必要なものではなく、ちょっとした道具と材料を用意し、テーブルがあれば行えるものが中心だ。
親しみやすい、お気に入りの雑貨店の店頭で行われるワークショップは、本格的な工房や教室で行われる講座などと比べると、心構え、時間や料金の面でも気軽に参加できる。
まったくの初心者にもトライしやすく、楽しくちょっとクリエイティブな体験。最終的に“自作”を持ち帰れるのが人気の理由だ。
大型雑貨店や手芸専門店にも同様の講習会があるが、そのセンスが、今ひとつしっくりこないと言うお客様にも雑貨店のワークショップは評判がよい。
開催のポイント
ただでさえ狭い(?)店内で、ワークショップを行うなんて、とても無理と思う方も多いだろうが、雑貨店も事情は同じだ。
かと言って、高額な料金の本格的な会場を別に借りて、開催の損益分岐点と参加申込の状況を見比べながら、やきもきすることは薦めない。
会場費のいらない店頭での開催を前提にした、スペースづくりや開催時間を工夫したい。店内のレイアウトを、暫時変更して、会場スペースをやりくりする店。“二毛作ビジネス”よろしく、店舗営業前の時間や店休日に行う店など、どの店も知恵を絞っての開催である。
講師は誰がやるの?
講師は、作品の展示販売などでつきあいのある作家が務めることが多い。自作の販売促進につながることもあり、多くの作家が快く引き受けてくれるそう。
日頃、取引のある気心の知れた雑貨店からの依頼に高額な謝礼金を望む作家はあまりいないようだ。店頭で販売している雑貨作品を制作している作家が“先生”として直接、指導アドバイスしてくれながらの制作は説得力もあり、お客様には貴重な体験になる。
当日の指導の段取りや材料の用意は打ち合わせのうえ、講師である作家にまかせることが多い。募集は、1ヶ月程度前から、店頭のPOPや自店のホームページ、ブログで開催を告知する。来店のお客様が募集の対象なので、宣伝や広報に無駄な手間、経費をかけることも少ない。
店側としてはスペースの確保と時間の設定。講師の選択と調整がメインの業務。開催告知や受講料の入金に関しては、それなりの手間もあるが、通常の業務の範囲であろう。
雑貨店のメリット
店側の目的は、もちろん、参加費や関連材料、道具の売上。そして、講師である作家の作品の販売促進だ。
しかし、それら以上に、お客様に店頭での「体験」を作品とともに持ち帰ってもらうこと。お客様と店が更に触れ合う機会を持つことが大きな目的。それは自店に対する好感度を高め、ファンを増やすことにつながるだろう。
ワークショップを開催することで、お客様の自店へのストアロイヤリティ(store loyality:愛顧度)を、より高めることが狙いなのだ。
繊研新聞2010年8月24日 senken新聞「StudyRoom」欄 不定期連載
著者
雑貨コンサルタント® 富本雅人(とみもとまさと)
【経歴】大型雑貨店バイヤーなどを経て、雑貨店開業、運営コンサルティング、ビジネスプロデュース他を行う。上場企業から個人店までの幅広いクライアントに対して「雑貨商品」「雑貨売場」を軸にした指導実績多数。各公的団体主催セミナーなどでの講演も行う。講座「雑貨の学校®」主宰。著作「雑貨の教科書」(SBクリエイティブ刊)は版を重ねるロングセラー。雑貨・ギフト・ライフスタイル業界を俯瞰して理解できる近著「雑貨力®」(ビジネスガイド社刊)が好評。HP雑貨コンサルタント