雑貨店のノウハウ 継続、成功のカギは?
雑貨店をはじめ、小売店経営は人気
ここ数年、続いた独立起業ブームも一段落といった印象の最近である。
だが、独立(雇われない、雇われたくない)志向の強い若者。家庭に専業主婦として一度入った後、再び社会との接点を持つ為の趣味(自己表現も)と実益を兼ねたビジネスをしたい女性。定年退職後の第二の人生を仕事の面からも充実させたいと考えているシニア層にとって、個人経営の小規模な生活雑貨小売店(専門店)経営はまだまだ根強い人気だ。
消費者としてなじみのある「小売店」という業種。良し悪しはともかく、経験や知識が少なくとも簡単に開業(運営)できそうな雑貨店のイメージ。以前より格段に豊富に(ハードルも低く)なった行政の各創業支援施策。
小さな雑貨店「でも」、雑貨屋「くらい」という軽い動機も、散見されるのだが、そういった場合、適性を含めた自己分析や調査研究もそこそこに開業してしまい、「簡単にはじめて簡単にあきらめる(廃業する)」ケースが多い。
これは生活雑貨店に限らず、小規模なファッション店、各種専門店にも共通する傾向ではないだろうか。ここでは、雑貨店の例をあげながら小規模小売店の継続、収益拡大、店頭をきっかけとした新事業の可能性を考えてみたい。
個人事業レベルの小規模な雑貨店(雑貨ショップ)を中心に取り上げるが、同規模のセレクトショップ、ホームファッション店、ライフスタイル店、ギフトショップなどにも大いに参考にしてもらえると考えている。
富本雅人 雑貨コンサルタント/講師
(本稿はファッション関係者に向けての業界紙に執筆したもの)
知恵と手数を惜しまない。売れる雑貨屋さん
ほとんどの場合、予算がない、スペースがない、人手がない、のないことづくしの小規模な雑貨店であるが、継続(黒字→成功)している店の運営への取り組みには、共通点がある。
例えば、月間数万円のレベルからせいぜい十数万円までの少ない販促、広告宣伝予算をフル活用し、知恵と手数を決して惜しんでいない事。DM製作もインターネットを駆使し、料金の安い印刷所を探して発注。自店のホームページもオーナーの自作ということも、珍しくないし、ポスティングやチラシ配布はスタッフ自らが、リサーチを兼ねて地道に行う事がほとんど。(2020年7月5日追記:今日ではSNSをはじめとしたネット販促、ECサイトでの販促、実売に注力)
不相応、高額な予算を使って販促、広告宣伝を行い、費用対効果の面から見て成功した例は雑貨店では少ない。
加えて自店で行う業務の全てを大切にする姿勢もあげられる。サインを含むファサード(正面外観)、店内デザイン、レイアウト、VMD、接客、ラッピング……。店内の隅々、業務のひとつひとつまでを貴重な販売促進の装置や機会としておろそかにしていない。
そう、至極シンプルで当たり前のことを丁寧に行っているのだ。
雑貨屋さん経営。しなやかにしたたかに
売上への執着
継続しているショップオーナー誰もが当然、売上にとても強い執着を持ち、日々の買上客数や点数にも大きな注意を払っている。これは利益に執着しているというよりも、売上(金額、客数、点数)は、お客様が自店の商品の良さに共感してくれたことのバロメーターである、という理解がそうさせているのである。
売上に対する執着が強ければ強いほど、店や商品に対するこだわりが強ければ強いほど、お買上くださったお客様に対する感謝の気持ちが大きくなる。その気持ちが、丁寧な接客や工夫をこらした売場作りのエネルギーとなり、さらに魅力的な運営を行うというサイクルだ。
今日お買上に至らなかったお客様に対しても、「明日」の来店やお買上につなげるため、おろそかな対応をすることはありえない。
筆者のセミナー
雑貨屋さん店頭からはじまる新規事業
小商いの吹けば飛ぶように見える雑貨店であっても、そこでの小売り販売だけでなく、裏でしっかり稼いでいるというパターンも多い。
はじめは、見たままの小売りだけのビジネスだったのが、店頭(売場)をきっかけに様々なビジネスをがスタートしていったという場合がほとんど。
雑貨屋さん商品を店外で。卸売り、イベント出店
海外直接輸入商品(ビンテージ他)やオリジナル商品の卸売りがあたり、店頭の収益を上回っている例。名入れ別注、客注(取り寄せ)などを積極的に受け付け、店頭の商品以上の売上を得ている例。
百貨店、ショッピングセンターでのイベント出店で好調な例。雑貨商品の持つ華やかさ、気軽さは、集客性が高いと考えられており、雑貨店への出店要請は頻繁に行われている。
プロデュース業他
クリエーター、アーティストの作品を販売しているショップが、そのネットワークを活かして、マネージメント業、プロデュース業を行っている例。
自店のノウハウ(運営、仕入手法他)をセミナー形式で開業志望者に伝授している例など、店頭を起点に様々なソフトビジネスをはじめるショップも多い。
もちろん、どの例もまず魅力的な店であることが前提であり、それらのチャンスを逃さない、したたかさをオーナーが持っていることが共通点だ。
雑貨のトレンド。時代を先取る柔軟さ
雑貨売場はトレンドに貪欲
一見、脈絡がないように見える商品構成の店も多いのが雑貨店(本当に脈絡のない店も時にはあるが)。その理由はお客様のライフスタイルを懸命に見つめ、これからのニーズやウォンツに敏感に品揃えで対応しようとしているからだ。
そして、「雑貨店」という定義があいまい(ゆるやか)なカテゴリーは、自転車や軽家具等の大型商品から食器、文具、アクセサリーまでと、様々な分野の商品を垣根なく取り込め、自由度が高いということも理由だ。
お客様のライフスタイルを意識して、商品構成を検討すると、産業分類(業種、アイテム)の定義で収まりきらないのは当然だろう。
お客様のライフスタイルに関連する新しい商品(分野)に敏感で店としてのカテゴリーの縛りが緩やか。結果、雑貨店は新たな商品分野を孵化させる(生みだす)機能を持つ。
雑貨店が積極的に取り入れ、今や雑貨店以外の店でも定番分野となったアロマ関連、ペット用品、北欧商品などと同様に雑貨店の品揃えには、将来のあなたの店の品揃えのヒントがあるかもしれない。
雑貨のトレンド、これからの伸びしろ
雑貨のトレンドと一口に言ってもまさに百花繚乱。ファッションの世界以上に細かく様々な傾向が入り乱れている。ちょっと強引だが、その中でも、比較的長続きしそうなもの、より幅広い層に受け入れられる可能性をもつものをピックアップし、以下のキーワードでまとめた。
大人のための
絵本、玩具、学習用品など本来子供の為にあるはずの商品。
驚くほどたくさんの子供用品が雑貨店で取り扱われている。子供の為に買い求める場合も当然あるが、大人が自分用にと買っているのが過半数。
木工玩具をインテリアオブジェとして部屋に飾る女性。アメリカのキャラクターフィギィアをコレクションする30代のサラリーマンなど、最近は珍しくはないということがその証拠だ。ひととき童心に帰る為のものと言い換えても良いだろう。
手作り(ハンドメイド、DIY)
バレンタインのチョコレートの手作りキットやラッピング用品などは女性向けの雑貨店では定番。
簡易なビーズ、シルバーアクセサリーのキットやパーツ、道具類を扱っている店も多い。どれも簡単な入門レベルのものだが、「手づくり」の面白さを体験し、自作を自分で使う(プレゼントする)ことの楽しみを提案するものばかり。
これからも手芸、クラフト関連の手作り商材は、様々な種類のものが雑貨店で扱われていくだろう。また手作り作家の作品を委託販売することも、すでに雑貨店ではよく見られる手法である。
新しい国
数年前の日本でのベトナム雑貨のブームは、小規模な個人雑貨店が火をつけた。雑貨〜インテリア〜フードの順に、ベトナムのあらゆる文化が紹介され、ブームとなったことはご存じの通り。
新しい(日本人が新鮮なイメージを持つ) 国の雑貨商品は、その国の魅力を効果的に伝える。今後、新鮮かつ魅力的な雑貨を見つけられそうな国やエリアとして、まず東欧(旧共産圏)。ロシアのマトリョーシカ(入れ子人形)、アナログ時計やカメラはすでに人気だ。
中近東(トルコ、モロッコ)のキリム(kilim:ラグ/織物)、バブーシュ(babouch:室内履き)、シルバーアクセサリーなども多くの店で見かけられるようになった。アジアのモダンデザインの雑貨も最近目立つ。韓国、シンガポール、タイ他の先進国などを中心に欧米スタイルのデザインの雑貨商品が日本でもたくさん展開されている。
グリーン
植物は雑貨店の新しい定番商品分野。こけ玉、ハーブ、ミニグリーン(観葉植物)などの生きた植物に加え、ドライフラワー、フェイクグリーンなども取扱商品だ。
レトロ
ファッションの専門家である読者には「釈迦に説法」かもしれないが、昭和30-40年代のレトロ(懐古趣味)な感覚の商品。最近では昭和50-60年代(1980年代)のものまでもが懐かしい商品として喜ばれている。
当時の風俗を思い起こさせるキャラクターグッズや、インテリア雑貨など。当時を知らない年代にとっては新鮮に感じられ好評である。
スタイルテイスト
デザイナーの華やかな履歴をセールスポイントにしたものや、「デザインの為のデザイン」とでも言えそうなモダンデザイン雑貨。カントリーや北欧スタイルをベースとしたナチュラルスタイルがここ数年、主流だった生活雑貨、インテリア雑貨分野だが、デコラティブなスタイルやアイテム(ゴシック調、シャンデリア等)も注目したい。
また、シンプルで素材や技の良さが光る日本の民芸雑貨。手ぬぐい、籠(かご)、やきものなども、知的な大人向けの店舗ではアピール性の高い商品となっている。
senken掲載2007年9月4日掲載
(web追記)この文章はなんと13年前にファッション業界紙に掲載したもの。ほとんど今の考えと同様であり、現在の雑貨屋さん開業希望者、小売関係者に向けてもお役に立つと判断してwebに掲載する。手作り作家、ハンドメイド商品などのトレンドの項目も、大きく予測を間違えてなかったと思うが、いかがだろうか。
さらに詳しくは書籍「売れる雑貨屋さん」に↓